ギリシャ・エーゲ海の船旅 7
ギリシアはヨーロッパ?

 ギ
リシアがEUの一員であり、「ヨーロッパ文明の源流はギリシア」の定説からも、ギリシアは紛れもなくヨーロッパの国。ところが垣間見たアテネは、ほこりっぽく薄汚れていて雑多。他の西欧都市とは雰囲気が違います。

 400年以上もトルコに占領されていたせいでしょうが、食べ物にもイスラム文化の影響が残っています。ギリシア名物の肉の串焼きスヴラキは、トルコでシシカバブと呼んでいるものと同じ。カダフィというそうめん状の甘―い菓子は、名前は忘れましたがトルコでも口にしました。ギリシアコーヒーも実はトルココーヒーのこと。1974年のキプロス紛争で両国が険悪になった時に、メニューがトルココーヒーからギリシアコーヒーに変わったと聞きました。

 トルコとギリシアはエーゲ海を挟んでの隣国。かつての支配者と被支配者の間で、今もいざこざが絶えないところは、韓国と日本の関係に似ています。近しい人ほど憎しみの対象にもなり得るのが世の常で、隣国だからこそ細かい差異に神経をとがらせ、争いにまで発展するのですね。

ギリシア正教

 
400年もトルコの支配下にあったギリシアですが、ギリシア語やギリシア正教が今なお残り、国民の98%がキリスト教の一派である正教徒。エジプトが独自の文字や言葉を失ってしまったのとは大違いです。何故エジプトの言語は滅び、ギリシアは残ったのか。種々の力関係のなせるわざだとは思いますが、ともかくギリシア文字やギリシア語は健在、正教の教会も林立しています。

同じキリスト教である正教、カトリック、プロテスタントの教義の違いは、よく理解出来ませんが、旅行者にもわかる外見上の違いがいくつかあります。まずイコン。イコンはイエスや聖書の物語を描いた板絵ですが、これが教会の壁に所狭しと飾られています。プロテスタントやカソリックの教会には見られないものです。ギリシア土産の代表的なものはイコンで、アテネの下町プラカ地区にはイコン専門店が軒並み。信者でない私もつい買ってしまいました。
 
 他に一見しての違いは、十字架の長さ。ギリシア正教の十字架は縦横ほぼ同じ長さですが、カトリックのそれは横が短くなっています。祈りの仕方も、左肩から右肩へがカソリック、右肩から左肩へが正教だと聞きました。カトリック教会が1054年に東西に分裂してほぼ1000年。形の差異はともかく、精神的・文化的に違ってきても当然でしょう。ギリシアが他のヨーロッパと雰囲気が違う2番目の要因は、正教にあると思います。

ギリシアにはルネサンスがなかった

 
日本で開催中のイタリアの「ポンペイ展」には、ベスビオ山の噴火で埋もれた邸宅の壁画が展示されています。ギリシア神話が多く描かれていることからしても、古代ローマ人にとってギリシア文化はあこがれの的であり、教養のあかしだったのです。

 14世紀にイタリアを中心に起こったルネサンスは、「ギリシア・ローマ文化の再生・復興」と言われています。ポンペイに見るように、ローマ文明がギリシア文明の模倣だったので、本来ならギリシア文明の復興と呼ぶべきもの。ところが本家本元のギリシアは、当時トルコに占領されていたこともあり、ルネサンスの動きから取り残されてしまいました。アテネの街には、ルネサンス芸術やバロック芸術の遺産がありません。ヨーロッパの他の街と違う雰囲気は、こんなところにも表れています。

 古代ギリシア文化、ビザンチン文化、イスラム文化そして独立後の現代文化が混在しているアテネは、どうしても又訪れたい街。アテネ再訪とギリシア本土を歩き回れる日が来ることを願って、「ギリシアの旅」をこのへんで終わりにします。  (2001年11月2日 記)

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