行きあたりばったり銅像めぐり
 34回

 フーテンの寅さん

 山田洋次監督「男はつらいよ」の映画を1度も見たことがない日本人は珍しいだろう。今回の「銅像めぐり」は、その映画の主人公・フーテンの寅さん。「生まれも育ちも柴又葛飾」の柴又へは、数度訪れているが、まだ渥美清が亡くなる前のことで、銅像も記念館もなかった。

 出かけたのは4月11日。「駅」という題の写真作品展が迫っているのに、良いものが撮れていない。寅さんの駅なら何かに出会えそうな気がしたのだ。予想は大当たり。たまたま11日は年に6度の庚申の日にあたっていたので、小さな駅のプラットフォームは満員状態だった。

 駅前広場には「元祖寅さんガイド」がいて、銅像を前に愛想をふりまいていた。客が引けた時に何度か彼と話すうちに、柴又駅をバックにした元祖寅さんを撮影できた。「写真展に出すかもしれない、HPにも載せるかもしれないけどいいか」と断りをいれたら、「どんどん宣伝してくれ」ということだった。

 というわけで、いつものごとく、ついでの銅像めぐり。左は作品展に出品するものとは別だが、寅さんガイドの野口よういちさん。山田監督からもらったジャケットだと、嬉しそうに脱いで見せてくれた。TV局の取材も数社から受けていると少し自慢げだった。

 それにしてもガイドで食べていけるわけがない。「普段は何をしているの」と聞いてしまった。名刺によれば、タレント、司会、ものまね。この日も、帝釈天の鳳翔ホールで行われる「こうしん演芸」に出演するという。付近の観光を急いで終えて行ってみたが、彼の出演は最後。帰る時刻を約束していたので、聞かずに出てしまった。

 「柴又」は、京成金町線にある。成田空港と上野を結ぶ幹線からはずれている小さな駅だ。だが駅を降りれば、寅さんの世界である。銅像が立つ駅前広場を抜けると、帝釈天の参道だ。

 草団子やせんべいを売る店が何軒も連なっている。草団子を買うために長い行列が出来ている。「1時間は待つよ」で、あきらめたが、手でちぎった美味しそうな草団子だった。下に出てくる「とらや」や「高木屋」では、すぐ買える。

 写真右の店は、1作目から4作目までロケに使われた「とらや」。他に「高木屋」も、寅さんゆかりの店だと宣伝している。もっとも5作目以降48作までは、松竹の撮影所を使った。ちなみに、1作目の封切りは昭和44年8月。48作目は平成7年12月。

 狭い参道を抜けると目の前は、帝釈天。彫刻の寺としても名高い。正式には題経寺という日蓮宗の寺である。縁日のせいか、境内は参拝客であふれていた。

 混み合っている帝釈天から5分も歩くと、別世界だ。芽吹いたばかりの江戸川の土手の緑がまぶしい。細川たかしの歌で有名になった「矢切の渡し」は、すぐそばだ。

 手こぎの渡し船で、向こう岸の千葉県まで運んでくれる。片道100円で、川風に吹かれるだけでも気持ちがいい。千葉県側には、伊藤左千夫の「野菊の墓」の碑や、南総里見八犬伝の「里見公園」もある。



 寅さんファンには見逃せない場所がもうひとつある。江戸川の河川敷と道路を隔てた所に、「寅さん記念館」が建っている。入場料は500円。記念館そばの広場には、1作から48作までのロケ地が、石に彫られているので、たどっていくだけでもおもしろい。全部をデジカメにおさめてきたが、載せるスペースがない。1作目のロケ地は、奈良だった。大仏と鹿の絵である。

 左は記念館そばの売店入り口に立つ寅さん。右が「記念館」の入り口。なぜか逆さの「館」の字を、後ろ向きの寅さんが抱えている。時間がなくて、中に入れなかったので、理由を聞きそびれた。寅さんの生き方を見れば、想像出来ないこともない。(2004年4月28日 記)

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