行きあたりばったり銅像めぐり
 36回

 伊達政宗 その1

 仙台という町は、伊達政宗なくしては語れない。彼がお国入りする前は、「千代」と書いて「せんだい」と読ませていたが、漢字を改めたのは政宗である。24歳まで仙台に住んでいた私ゆえに、もっと早く取り上げるべきだったが、いつでも良いの思いが、ここまで遅らせてしまった。

 彼は、米沢城(山形)で1567年に生まれた。米沢城趾には、上杉謙信と上杉鷹山の銅像はあるが、政宗に関しては、生誕地という簡単な説明があるだけだ。

 豊臣秀吉の小田原攻めに参戦後、25歳で岩出山(宮城県北部)城主に命じられた。仙台に移ったのは、関ヶ原の戦い後、1601年。35歳の若さで62万石の藩主になったことになる。亡くなったのは徳川体制がほぼ固まった1636年。70歳だった。最後まで徳川家康を恐れさせた英雄だったが、信長、秀吉、家康より30歳ほど若い。天下を狙う時期が少し遅すぎた。

 右上写真は、仙台城趾にある騎馬像。5月28日に仙台に行った時に撮ってきた。11時に駅で待っていてくれた小中の友達Sちゃんと一緒に、「ループル仙台」に乗った。政宗の御霊屋、博物館を見物した後に城趾に行ったので、逆光になってしまった。

 「ループル仙台」は、仙台の主な名所を回るミニバスだ。600円で何度でも乗り降りが出来る。伊達めぐりをした翌日に、大学のサークルの会合があった。市の観光課に勤める後輩に、「ループルバスは好評なので、もっと充実させる準備をしています。又乗ってください」と頼まれてしまった。

 この像が完成したのは、昭和39年10月。私が仙台を去る少し前だが、完成時には見ていない。10数年後に子ども達を天守台に連れて行った時に、初めて見たような気がする。

 若い頃に見慣れていたのは、騎馬像ではなく平服姿の政宗像(左写真)だ。10年ほど前に、岩出山城趾に行った時に、この像に出会い、旧知に会ったようで嬉しかった。「あら!こんな所にいたの」と声を出してしまった。この写真は、トライアルさんにお借りした。彼女は、庭園シリーズ以外に、政宗関連の写真を丹念に撮っている。画像がきれいなので、ぜひクリックして欲しい。

 この平服像はセメント製。昭和27年に小野田セメントから寄贈の申し出があったという。仙台城趾でお払い箱になった後に、政宗が若い時に住んだ岩出山に移した。晩年の姿だが、捨てられるよりマシかもしれない。

 せっかく寄贈された政宗像を、作り替えたのには、わけがある。もともと城趾には、政宗の騎馬像があったが、太平洋戦争の末期に、供出命令が出た。1回目に取り上げた井伊直弼像も、供出された。何度も言うようだが、銅像を供出せねばならないほど、物資が不足していたことになる。

 右が、供出前の騎馬像。「母が語る20世紀」用に、写真を集めていて見つけたお宝だ。父母、兄、姉、祖父が写っている。私はまだ生まれていない。裏には昭和12年とあるが、それは、父が東京から仙台の職場に移った年である。祖父が東京から遊びに来た時に、定番の名所を案内したのだろう。騎馬像が出来たのは昭和10年。この写真の2年前に設置されたばかりだ。

 台座は供出されずにそのまま残ったので、今と同じ。台座のレリーフはトライアルさんが撮っているが、政宗の業績が絵で表されている。

 この像は、宮城県柴田町出身の小室達が製作。戦前のブロンズ騎馬像を復元しようの機運が高まった時に、原型が柴田町の小室宅に保存されていることがわかり、難なく元通りの像が完成した。

 ところで、戦前の像に関しては、さらに後日談がある。戦後、郷土史家・石川謙吾氏が、塩竃の東北ドッグ(いまの東北造船)の敷地内で、上半身だけ打ち捨ててある政宗像を見つけた。新円3000円を投じて入手し、青葉神社に奉納。昭和36年に博物館が建設された時に、博物館所有になった。

 上半身像は、博物館の裏庭にある。(左写真)。

 これは去年の9月に、撮影した。5月に行った時には、台座に右下のような黄色い張り紙があった。写真は撮れる時に、撮っておかねばと痛感した。

 再設置の7月は、守られているだろうか。8月の七夕祭までには、修復して欲しいものだ。上半身が切り取られたあげく、工場にほっぽり出され、たどりついた安住の地も、地震で危ないという。

 政宗騎馬像をめぐる数奇な運命については、詳しいことを知りたかった。「銅像めぐり」にアップするからには、いい加減なことは書けないからだ。博物館の学芸員に質問したところ、それに関するコピーをくれた。世の趨勢には関係ないことにこだわっている私に、Sちゃんは、イヤな顔ひとつせずにつきあってくれた。おかげで、謎が解けた気分である。

 政宗がいかに仙台人に馴染んでいるか。その2で取り上げる。(2004年7月11日 記)

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