ブツブツひとりごと  28回     (北山田だより316号-2014年7月号−から抜粋)

   サッカーだからいいけれど

史上最強のチームと言われながら、ザックジャパンは1勝もできずに一次リーグで敗退。「優勝しか頭にない」と発言をしていた本田や長友の気持ちは、分からないでもありません。口にすることで自分や周囲を鼓舞したのだと思います。中心選手が「一次リーグ突破は難しい」など言ったら、「そんな弱気でどうする!」と、サポーターやメディアから非難されるに決まってますもの。

私とて「FIFAランキングを考えると負けるんじゃないの」とは思ったものの、大声でそれを言ったらひんしゅくを買いそうな雰囲気だったので黙っていました。

それほどワールドカップ直前の日本は、国をあげてイケイケドンドン。Jリーグにどんなチームがあるのか、前年度のチャンピオンチームはどこだったか、オフサイドのルールさえ知らないサッカー音痴の方も、一喜一憂している有様です。

大げさな見方をすれば、太平洋戦争の真珠湾攻撃直後の高揚にも似ていました。冷静に分析すれば大国アメリカに勝てっこないのに、「なんとかなる」と希望に満ちていた数ヶ月。私は真珠湾攻撃当時の世相をリアルタイムでは知りませんが、史料や小説を読み、両親から聞いているので、分かっているつもりです。

ちなみにワールドカップ直前の2014年6月に発表されたFIFAランキングでは、コロンビアは8位、ギリシャは12位、コートジボワールは23位、日本は46位。戦いが終わってみれば、一次リーグC組での順位も、この通りになりました。入学試験の結果が模擬試験判定どおりになる確率はかなり高いわけで、FIFAランキング上位の国が勝つ確率が高いのは当たり前です。46位の国が、ベスト8・優勝などと口にするのは、私が「東大に入る」と宣言しているようなもので、現実離れしています。

もっとも例外や奇跡はあるもので、32か月連続でランキング1位だったスペインは早々に敗退しました。この例外や奇跡に、期待を持ってしまうのが人間なんですね。「死ぬ気でやれば勝てる」「自分たちのサッカーをすれば勝てる」など、都合の良い思考しかできなくなります。

メディアが煽る気持ちも分からないわけではありませんし、サポーターもメディアやサッカー解説者の分析に半信半疑なるも「勝てる」という楽観論の方が、楽しくてわくわくします。日本のランキングが46位である事実を冷静に分析することをしなくなります。

私が言いたいのは、サッカーだからいいけれど、こんな楽観論でアメリカと戦争をはじめてしまった歴史が日本にはあることです。日本軍は「日清日露戦争で勝った。第一次世界大戦でも勝った。だから今度も、皇軍は大勝利するだろう」という根拠のない成功だけを頭に描き、失敗した場合の策を何も考えていなかったと言われています。わが身に起きて欲しくない話題は避けていたのです。

この傾向は今にいたるも同じで、集団的自衛権が閣議決定されたというのに、事の重大さを自覚してない人が多すぎます。海外での武力行使が容認されたのに、若者の多くは立ち上がりません。「まさか本当に戦争に巻き込まれることはないだろう」「まさか自分や家族が戦場に行くことはないだろう」「戦場に行くとしても自衛隊が行けばいい。自分には関係ない」という都合の良い解釈しかしない人がたくさんいます。

日本人は最悪の事態を想像する力が弱いのか、あるいは悪い事は考えたくないDNAを持っているのか、もし最悪なことになっても誰かが何とかしてくれるだろうという無責任思考の持ち主が多いのか、自分だけは酷い目にあわないという楽観論者が多いのか。
                                     (2014年7月23日 記)

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