ブータンの旅3 国が豊かでない場合は、環境が後回しになることが多い。でもブータンは環境にも気をつかっている。原子力発電も火力発電もないので、放射能や二酸化炭素による汚染の心配はない。水力発電ですべてをまかなっているのだ。水力発電は国費の歳入の40%を占めるほどは重要な産業で、インドに輸出している。ヒマラヤ山脈の雪解け水の落差を利用しているので、ダムのために村ごと水没するような悲劇はない。
国土の70%が森林だ。でも木をむやみに伐採せずに、むしろ森林の割合が増えている。中部のジャカールのホテルでは、薪ストーブだった。薪がすぐ燃え尽きてしまうので、「森林破壊にならないかしら」と心配したが、間伐材を使っているそうで、他国のことながら安心した。 2004年から禁煙になったので、煙草を吸っている人はいない。日本なら禁煙に至るまでに、業者の権利を守れとか、嗜好を押し付けるべきではないなどの反対論がうずまくに決まっている。ガイドが言うには「禁煙が決まったときも、さほど反対はなかった」。仲間に喫煙者がいなかったから、旅行者にも禁煙を義務付けているかどうかは、聞きそびれた。
ウオンディ・フォダンで、通学途中の兄弟と話す機会があった。15歳の兄も12歳の弟も医者になりたいと言っていた。ふたりとも賢そうな少年だったので、夢が叶うような気もする。
犬を飼うことが禁止されている国もあるのに、ブータンでは首輪もつけない犬が、寺の境内や道路を歩き回っている。ゾンに向かう橋の真ん中に、堂々と寝転んでいたこともある。人の気配で起き上がってもよさそうなものだが、蹴られたりされないからか、堂々としたものだ。首輪がないので、犬の登録制度はないようだ。 添乗員が「噛まれたら狂犬病にかかる恐れもあります。噛まれないようにしてください」と言う。小さいときに噛まれたことがある私は、放し飼いの犬を見るだけで怖いのに、狂犬病に注意と言われてもどうやって防いでいいものやら。これからブータンに行く人は狂犬病の予防注射をしていった方がいいかもしれない。犬の遠吠えで目覚めたこともあるほど犬がたくさんいる。なんども「お犬さま」を見たわりには、1枚も撮っていなかった。それだけ怖さが先にきたことになる。
犬ばかりではない。馬や牛も道路を堂々と歩いている。バスや乗用車も警笛などは鳴らさずに、道路の端によけるのを根気よく待っている。牛が田を耕している場面も数回見た。馬も牛も貴重な労働力になっている。高地では、ヤクもよく見かけた。ヤクは肉として食べるだけでなく、毛織物の原料にもなっている。 ブータンに着いた11月7日に、ミレーの絵「落穂ひろい」とそっくりの光景を見た。もちろん落穂をひろっていたわけではなく、刈り終った稲を束にしたり、脱穀作業をしているところだった。思えば稲刈りの作業はこの日が最後だったのではないだろうか。後に見た田は人影がなかった。一度だけ牛に耕させている光景を見た。
田だけを見ると日本とよく似ているが、コメの種類は違う。赤米がほとんどだ。見た目は赤飯だが、味は似ても似つかぬパサパサ米だ。 (2013年1月16日 記) |