ポーランド・チェコの旅 8
アウシュビッツ収容所

2003年8月13日(水)

 今回の旅のハイライト、アウシュビッツ強制収容所見学の日だ。ザコパネからほぼ2時間でオフィシェンチムに到着。アウシュビッツはナチスがポーランド占領後にドイツ語に変更した呼び名、ポーランド語ではオフィシェンチム。駅名(右)もそうなっているが、ここではアウシュビッツと呼ぶことにする。

 ガイドは誠実そうな若者・中谷さん。(左)。「地球の歩き方」にも囲み記事で紹介されている。激動期のポーランドに興味があり、この国にきた。収容所を見学したら、いてもたってもいられなくなり、初の日本人ガイドの認定をもらったという。常駐しているわけではないので、彼に案内してもらえたのは、幸運だった。

 見学前に、日本語パンフレットとヴィデオを買った。日本人が多いからこその日本語版だと思うが、欧米人に比べれば少ない。見学者が多い国の順序は、ポーランド、ドイツ、アメリカ。

 収容所の入り口には「ARBEIT MACHT FREI」の文字がある。(右)。「働けば自由になる」の意だ。ガス室に送っておきながら、何が自由なもんか。

 ちなみに、ここは撮影自由、入場料も無料。ドイツがお金を出しているのかもしれないが、人件費や管理費も必要だ。にもかかわらず、無料なのは、広く知ってもらいたいのメッセージのようにも思える。フラッシュもOKだ。
 
 収容所は、1940年にポーランド人政治犯を収容するためにナチスが作った。その後、全ヨーロッパのユダヤ人が収容される施設に変わった。交通の要所であったこと、人口密集地から離れていたことから、この地が選ばれた。

 中谷さんのガイドでいくつかの棟を見学した。赤煉瓦の美しい建物の周辺にはポプラが茂り(左)、内部で恐ろしい事が行われたとは想像しにくい。

 展示品の多くは、衣類、眼鏡、ブラシ、靴、トランク、食器、台所用品(右)などの持ち物。単に東ヨーロッパに移住させれれると信じていた人が多く、日用品を持っての移動である。

 映画「シンドラーのリスト」にもアウシュビッツに貨車で送り込まれたユダヤ人が髪の毛を切られ、持ち物を没収される場面が出てくるが、それと重なってしまう。

 所持品の中で、利用できそうなモノはドイツ本国に送って再利用した。金歯は金の延べ棒に、髪の毛(左)は毛布に、死体を焼いた灰は肥料に。

 収容所に連行されたユダヤ人は、まず腕に番号を押された。(右)。後になると、こんな手間のかかることはしなくなり、即ガス室に送り込まれた。こんな有様だったので、アウシュビッツで殺された正確な名前や人数はわからないが、150万人は下らないと言われている。

 むごたらしい部屋は、これでもかこれでもかと続く。集団で銃殺された「死の壁」(右下)、飢餓室、「立ち牢」、ガス室、焼却炉(左)・・。人間はこうまで惨くなれるものか。

 だがしかし・・。もし私がナチスの従順な一員であったならば、同じ行為を平然とやったにちがいない。

 収容所所長のルドルフ・ヘスは、すぐ側の官舎に家族と一緒に住み、子ども達を職場に連れてきている。官舎には、焼却炉で焼く死体の臭いが流れていったはずだが、それでも平気だった。彼は、ユダヤ人を虐殺することに良心の呵責などなく、正義のためと信じてやっていた。

 ツアーの全員が説明を真剣に聞き、質問もたくさん出たので、「E社のツアーは熱心な人が多いですね。早く切り上げてくれと言う人もいますよ。飽きてないようなので、これからビルケナウまで行きましょう」と中谷さんが提案した。

 ビルケナウは、アウシュビッツから3qほど離れている。線路が残っているので、汽車で送り込まれた彼らを嫌でも想像してしまう。(左)。アウシュビッツより広い約53万坪。300棟以上あった建物のうち、残されているのはその一部だが、収容所のひどさを物語るには十分な施設だ。アンネフランクもここの収容所で、チフスにかかって亡くなった。

 ある状況に置かれれば、罪もない人を平気で殺すことができるのが人間なのだ。私にもそれがないとは言えない。人間の持つ二面性について、深く考えさせられたアウシュビッツとビルケナウの3時間だった。

 見学後、オフィシェンチムの駅前のレストランで昼食。深刻な顔をしていた人々も、食事中は和やか。尾をひかない程度のショックさだったのかもしれない。すでに本や映像で知っているので、慣れっこになっているのかもしれない。

 ナチスやドイツを非難するのは簡単だが。ユダヤ人の国・イスラエルはパレスチナと和解しそうにもない。第2次大戦で酷い目に遭わされたユダヤ人が、パレスチナの子ども達を襲撃している。和平の道は遠そうだ。人間は懲りない動物なのだと思わざるを得ない。(2005年1月2日 記)
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