チュニジアの旅 6
オアシスとナツメヤシ

 絵本や映画では、何度もオアシスを見ています。砂漠にヤシが数本すくっと立ち、ベールを被った美しい女性が水を汲みにくる、あるいは、道にまよった隊商がオアシスにたどり着き、狂喜するといった光景でした。

 こんなイメージとさほど変わらないオアシスに、数回出会いました。右写真はシェビカという地にある山岳オアシス。ご覧のように茶一色の世界に、ナツメヤシの緑が救いになっています。

 4WD車を降りて30分歩いただけでも、源泉を見た時には感激しました。ラクダの長旅で疲れた旅人の感激は、ひとしおだったでしょう。澄みきった清水が、何故ここだけに湧き出るのか不思議でなりません。地下水ということなら、他の地域にもありそうなのに。

 あまりにきれいな水なので、手で掬って飲んでみました。くせのない天然水〜♪。夫は「下痢でもしたらどうするんだ」とあきれていましたが、オアシスの水を味わえて幸せ。

 オアシスに唯一の緑を提供しているナツメヤシは、乾燥、暑さ、砂に強い特性があり、砂漠にぴったりの木です。トズールからマトマタ(チュニジア1の地図参照)までの砂漠地帯には、ナツメヤシが16万本も生えているそうです。

 200年もの寿命があり、公害で枯れる心配もなしとて、増えるばかり。自宅に植える人もいるので、ますます多くなるのでしょう。メディナでは、苗を売っていました(左写真)。

 「桃栗3年」に比べれば長く、植林後6年で実をつけます。実の収穫期は11月ですが、訪れたのは年末年始。実がなっている木はほとんどなく、やっと一本だけ写真(右)におさめる事ができました。

 オスとメスの木がありますが、目にするほとんどは、メス。オスばかりを郊外に集めて栽培し、人工的に受粉するそうです。実をつけないオスの木は、隅に追いやられ、メスの木だけが、華やかな場にお出ましです。嘘じゃありませんよ。現地ガイドが真面目に説明してくれましたから。雄雌混合に植えれば、人の手がいらないようにも思えますが、人工の方が効率がいいのでしょうね。

 収穫したばかりの実は、屋台や市場に山と積まれていました(左写真)。箱詰めを土産に買いましたが「干し柿に似て美味しい」「天然の甘さね」「まずくはないけど、どんどん手を伸ばす気にはならない」などさまざまの反応。

 砂漠を旅する人には、美味しい、不味いなど言ってられず、主食だったそうです。そうそう、「おたふくソース」の独特の甘さは、このナツメが入っているからだと聞きました。

 日本でナツメと言えば、クロウメモドキ科の落葉樹。穫れる実の形が、お茶を点てる時に使う薄茶器にそっくりなことから、薄茶の容器を棗と呼んでいます。

 さて、ナツメヤシはヤシ科の常緑樹。クロウメモドキ科のナツメとは無関係ですが、写真でおわかりのように、実の形はよく似ています。

 実を穫る以外に、樹液から砂糖を作ったり、酒を醸造したり、そうかと思うとヤシの葉は屋根葺きや繊維にも使われるそうです。幹は直径が50aにもなるので、建材にも使われています。穴倉住居でベッドを見せてもらいましたが、ベッドのマット下は、ヤシの木でした。こんな風に、ナツメヤシは、砂漠の民にとって、神様・仏様。

 最近は、一般家庭を訪問するツアーが増えていますが、この旅でも、ネジブ家を訪問して夕食を共にしました。ネジブさんは、緑化政策に貢献したとして、大統領から表彰された農業経営者。ナツメヤシを植林して、人工オアシスを作ったのです。

 表彰されるほどの経営者の家なので、一般家庭にはほど遠い豪邸。ナツメヤシ御殿です。ウイスキーを頼んだ人は、ボトル半分で6000円も取られたとぼやいていましたから、レスラン経営の腕もお見事。でも、Tシャツとジーンズの現代風の明るい奥さんは、伝統的な腰振りダンスを教えて踊りの輪に誘うなど、旅人を楽しませてくれました。(2004年4月2日 記)

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