バルト3国の旅5 (最終回)
 

2015年7月6日―8日目

バルト3国の旅は昨日で終わり。10時半の高速船「タリンクシャトル」でエストニアからヘルシンキに向かった。初日にヘルシンキからバルト入りした行きの船内では眠くて半分ぐらいウツラウツラしていたが、帰りは同行者とおしゃべりをしているうちに2時間はすぐ過ぎた。

ヘルシンキには、初日のガイド前田さんが待っていた。前田さんは日本に留学に来たフィンランド人と結婚。14年前からここで暮らしている。

昼食後市内観光。2006年に北欧4か国のツアーに参加しているが、その時と同じ個所を巡る。フィンランドはスエーデンに650年間、ロシアに150年間支配されていた。独立は1917年12月6日。いろいろな国に支配されてきた歴史は、バルトの国々と似ている。

まず元老院広場に行った。アレキサンダー2世の銅像が真ん中に鎮座している。ロシア人の像がもっとも観光客が集まる広場に建っているのに、国民から文句も出ないらしい。

広場から数10段の階段の上には白亜の大聖堂が建っている。1852年建立のプロテスタントルーテル派の教会。この国は70%がプロテスタントだ。1300の席には、オスの馬の尻尾を加工した革が貼ってある。高そうな椅子だなと思いながら、腰をおろしてみた。


 大聖堂とアレキサンダー2世の像
 
大聖堂の階段で一休みする人
ほとんど2人連れ


大聖堂の階段をふと見上げると、たくさんの人が座っていた。微笑ましい光景だったので思わずシャッターを押した。帰国後によく見たら、座っている人たちがみな2人連れ。ほんの一瞬で撮った写真だが、今回の旅ではベストだと言う人もいる。

初日に遠くから眺めたウスペンスキー寺院に行った。ロシア正教の寺院。この国にはロシア正教を信じる人が2%いるという。今日月曜は休みなので内部には入れなかった。正教寺院は飽きるほど見てきたが、思えば10年前にここを訪れたときは、正教寺院のイコンや扉が閉まった祭壇が珍しくて感激した。

この寺院の近くにトーベ・ヤンソン(ムーミンの作家)公園があった。ムーミン像があるわけでもなく、そっけない公園だが、トーベ・ヤンソンさんが公園近くに住んでいたという説明を聞いた。

 
ロシア正教のウスペンスキー寺院

 
1952年のオリンピック競技場

オリンピック競技場は、1952年のヘルシンキオリンピックの時のもの。戦後日本が初めて参加したオリンピックである。おりしも日本では2520億円にもなる国立競技場建設が話題になっていた。あらためて、以前のオリンピックは素朴だったなあと思う。もっとも60年以上前と比較するのは酷だけど。

シベリウス公園はフィンランディアの作曲者シベリウスの名がついている。シベリウスの顔やモニュメントは、10年前となんら変わってない。思えばどの観光スポットも変わっているようにはみえない。めまぐるしく変化させるのが嫌いなお国柄なのかもしれない。

 
シベリウス公園

 
テンペリアウキオ教会内部


前回の旅でもっとも印象に残ったのが1969年建立のテンペリアウキオ教会だ。氷河期の花崗岩をダイナマイトでくり抜いたモダンな作り。ユニークと言う点で、今度も期待を裏切らなかったが、観光客があふれていて厳かさは感じられない。

前に来たときはフィンランド人と結婚している日本女性がガイドしてくれた。この教会での言葉が忘れられない。「この斬新な教会で結婚式をあげたがる人はたくさんいます。でもフィンランドの離婚率は52%ですよ」と話してくれた。前田さんにこの話をしたら「離婚率は今も変わりませんよ。僕は大丈夫だという自信はあります」と聞かれもしないのに答えた。日本で知り合った奥さんは、学校の先生をしながら2人の子供を育てている。

フィンランドの福祉については前にも聞いたし、よく知られている事だが、前田さんは育児がしやすい国だと強調した。「生まれるとベビーセットが送られてきます。育児休暇は3年間とれます。ベビーカーを押していると交通機関は無料です」

犬専用の公園が、ヘルシンキだけでも80か所ある。この公園では犬を放してもいい。お犬様の税金は1年間で50ユーロ。7000円ぐらいだ。前にもこの話を聞いたので旅行記を読み返してみたら、やはり50ユーロだった。10年間も値上がりしない。たとえば中国なら10年前と今では値段も都市の景観も様変わりだと思うが、今のフィンランドには「激動の」と言う言葉はないのかもしれない。

               <ヘルシンキのスカンディックパークホテル泊>

7月7日(火)-9日目

今日は午後2時までフリータイム。ツアー仲間の半数は、スオメンリンナ要塞行きのオプショナルツアーに参加したが、私たちは10年前に行ったので市内を歩き回ることにした。幸いホテルは、ヘルシンキの駅や繁華街に近い。路面電車も通っているが、結局は全部徒歩で回った。足が達者なら歩きが最高だ。思わぬ発見がある。

まず目指したのは駅。トーロ湾を左手に見ての散歩道は快い。もっともこの道は自転車優先らしく、自転車が気持ちよさそうに追い越して行く。こんな道を通勤に使っているフィンランド人と満員電車に詰め込まれる日本のサラリーマンをつい比べてしまう。

 
自転車専用道路で通勤
 
キアズマ現代美術館


フィンランディアホールという、シベリウスを思い出す音楽ホールを通り過ぎると、モダンなオブジェがあるキアズマ現代美術館がある。開館前だったが、前庭にある魚のシャケを表したと思われるオブジェを見ただけで満足。

鉄道の駅が大好きなので、フリータイムがあると駅に行くことにしている。ヘルシンキ中央駅はプラットフォームや待合室の天井が高く風格がある。

 
ヘルシンキ中央駅は風格がある

 
ストックマンデパートの照明売場


列車に乗り降りする人たちをしばし眺めたあと、近くにあるストックマンデパートに入ってみた。主にキッチン用品やインテリア売り場を見た。北欧のデザインは無駄な装飾がなく使いやすそうなものばかり。しかもセンスがよく20歳若かったら多少高くても買ったが、目の保養だけにする。

ブランド品や土産品を売る繁華街の店を冷やかしながら歩いていると、いつの間にか元老院広場に出た。きのうも来たところだが、「○時に集まって」というプレッシャーがないだけでも、心休まる。今日は中国人観光客であふれていた。バルト3国では中国人をほとんど見なかったが、ヘルシンキには大勢いる。彼らを観察していて分かったのだが、自分たちが写真を撮りたい時などは、周囲が目に入らなくなるらしい。演奏をしてる人の隣でVサインなどしながらカメラに収まるが、チップをあげるでもない、ありがとうを言うわけでもない。嫌われる理由の1つかもしれない。

 
ウスペンスキー寺院内部
イコンで飾られている

 
内部も外部の木製のカンピ礼拝堂
2012年に出来たばかり

きのうは中に入れなかったウスペンスキー寺院に又行ってみた。ヘルシンキのロシア正教の信者はとても少ないのに、見た目が美しいこともあって印象的な寺院だ。きのうは近くまでバスが横付けしたが、今日は元老院広場から歩いていく。景色がまるで違うことも新鮮だ。ちなみに、ウスペンスキーは聖母マリアという意味。

ウスペンスキー寺院に腰かけて宗教的な時間を過ごしたあと、海辺を歩いていると港に出た。「スオメンリンナ要塞に行った人たちが帰ってくる頃じゃないかしら」と話していたら、添乗員さんが「私も出迎えようと思ったのですが、あと30分ぐらいかかるんですって」と言う。私達には彼らを出迎える義務はないので、ひとまずサヨナラ。

近くにある屋根つきのマーケットに行った。魚、肉、野菜や加工品のジャムや珈琲も売っている。簡単なレストランもある。でもヘルシンキの物価は高い。この暑いときに高い食料品を持って帰るバカもいないので、見るだけにした。

ヘルシンキのお奨めマップを見ていたら、カンピ礼拝堂に行ってない。ホテルへ戻る道すがら寄れそうだ。繁華街に近いその場所に行っても教会らしい屋根が見えない。「でもここしかないよね」と言いながら近寄ってみたら、曲線のある奇抜な建物が礼拝堂だった。

テンペリアウキオは岩をくりぬいて作ったが、ここは外部も内部も木製。外壁はモミの木の細木を積み上げている。木が豊富なフィンランドにふさわしい材質である。テンペリアウキオは観光客で混み合っていて静寂とはほど遠かったが、ここはいたった静か。ミサや結婚式や洗礼は行わず、誰もが静かなときを持てるように門戸を開いている。信者でもないのに申し訳ないと思いながら、しばし静かな聖堂で過ごす。

ヘルシンキは10年前と変わってない・・と思ったが、カンピ礼拝堂は2012年に作られたばかり。こんな風に少しずつ変わっていくのだろう。

カンピ礼拝堂を出て、もうすぐホテルというところに歴史博物館がある。たまたま出会った女性2人のお仲間が「私たちはほとんどの時間を博物館で過ごしたんですよ。見どころがたくさんあった」と言うので、1階部分だけを覗いてみた。またヘルシンキを訪れる機会があったら、今度こそ行ってみたいと思わせるような博物館だった。

空港には3時前に到着。手続きをした後の2時間余はラウンジで過ごした。

17時25分(ヘルシンキ発)7月8日(水)-10日目 9時(成田着)
                                          (2016年12月2日 記)


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