ポルトガルの旅 8
ファド(ポルトガルの演歌)

 ポルトガルに行く前の写遊会の集まりで、次の展覧会の題が「顔」と決まりました。「なるべく画面一杯に。人生が現れるような表情を。カメラ目線はない方がいい」など、先生の条件は厳しいもの。プライバシーがうるさい昨今なので、訴訟でも起こされたら大変。外国での撮影なら文句も言われまいと、ポルトガルで撮ることに決めました。

 出品した作品は、ファド歌手・マリ・ジョセさんの大写し。右写真の方です。私は名前すら聞いたことがありませんが、大物だそうです。もちろんマリさん登場は最後。大声量と、しんみりする歌いっぷりに、会場のあちこちから拍手大喝采が起こりました。

 大写しを撮るために、かぶりつきに座っていたおかげで、右下にチラッと見える黄色い花を、私はもらいました。隣に座っていた夫は、マリさんからキスのプレゼント。同行者の方が、写真!写真!と騒ぎましたが、あっと言う間。若くない二人の熱いショットは、撮れませんでした。客を喜ばせる術も長けているのですね。

 作品のタイトルは「憂い」、撮影場所は「ファドレストラン」とするつもりでしたが、「ファドって何?」と却下されてしまいました。ファドは、イタリアのカンツオーネ、フランスのシャンソンほど知られていないのですね。

 ファドは、簡単に言うと演歌。海に出たまま帰らぬ男を待つやるせなさや、故国に思いをはせる寂しさを歌っています。世界で初めて荒海に出ていった国、海にしか活路を見いだせなかった国ならではの独特のジャンルです。

 左は、ファドレストラン内部。雑多な雰囲気が、ファドに相応しい気がします。

 リスボンの下町アルファマ地区と、高台のバイロアルト地区には、つぶれないのかと心配になるほど、ファド酒場が並んでいました。石畳の薄暗い露地を歩いていると、各店から、灯りとざわめきが漏れてきました。「あ〜私は、ユーラシアの果てにいるのだ」


 丸いギター(ギターラ)と、普通のギターの演奏者がいます。演奏者は、同じですが、歌手は次から次へ違う人が。女性の歌は、顔つきや歌の調子から判断するに、憂いをおびたメロディーばかりです。(左写真)

 男性の歌は、憂いとは似ても似つかぬ、はずんだよう健康的なメロディ。暗い酒場の雰囲気が一転して、明るい歌声喫茶に変わりました。それもそのはず、男性歌手の歌は、コインブラファドと言う学生歌。コインブラには、古い歴史を持つ有名な大学があり、自然発生的に誕生した歌が、コインブラファドと呼ばれるまでになりました。

 右上写真の歌手は、学生とはかけ離れた年齢ですが、陽気なポルトガルのおじさんと言った雰囲気でしょう?以上、3つの「顔を」アップしてみました。

 ファドが世界中に知られるようになったのは、そう古いことではないのです。1954年のフランス映画「過去を持つ愛情」の中で、アマリア・ロドリゲスが歌った「暗いはしけ」が大ヒット。それ以来、ロドリゲスの名と共に、ファドが世界を席巻しました。

 私は10年前にロドリゲスの歌声を生で聴いています。仙台の友達Eちゃんに券を頼まれて予約しました。亡くなったのは1999年ですから、その6年前のこと。グリーンホールという設定が気に入りませんが、2時間も続いたしゃがれ声の歌にしびれました。歳を感じさせない歌いっぷりでしたよ。

 字幕スーパーつきコンサートと印刷してありますが、歌詞を目で追っていた覚えはありません。歌声だけで満足でした。

 みなさま、私の整理の良さに、感心して下さいました?エジプト編には、1965年の半券も載せていますもの。(2003年11月15日 記)

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