<1997年12月29日〜1998年1月5日>

  1 ラマダン
  2 成田からもうイラン
  3 チャドルを着るな!から着ろ!へ 
  4 オモテとウラ
  5 世界初の帝国・ペルシャ   
  6 世界の半分・イスファハン      
  7 ペルシャの市場
  8 「ナン香るイランから」


イランの旅 1
ラマダン

 
緊迫しているアフガニスタンが「ラマダン」入りしたのは11月16日。空爆ニュースの中に、「ラマダン」なる言葉が、ひんぱんに出てくる昨今です。私は、1993年3月にトルコで、1998年1月にイランでラマダンをのぞき見しました。少々古い話になりますが、時節柄イスラム圏の旅がおもしろいかなと、「イランの旅」を綴ることに。

 イランはイラクとアフガニスタンにはさまれた国。イスラム教の少数派・シーア派を国教とする国。それだけで何やらきな臭いものを感じますが、当時は危険の片鱗すらなく、刺激に満ちてはいたものの、いたって穏やかな8日間を過ごしました。写真は、博物館に来ていた子供達に声をかけて撮ったもの。後方にいる成人女性は付き添いの先生ですが、黒いチャドル姿。白いスカーフをかぶっている小学生は、カメラを避けることもなく、笑顔を作ってくれました。

 ラマダンつまり断食月はイスラム暦の第9月。日の出から日没まで食べ物はもちろん、タバコも吸えず、水すら御法度。月の満ち欠けをもとにした太陰暦は新月と新月の間が1ヶ月なので、太陽暦より1年が11日ほど短くなっています。トルコの旅の時には3月、イラン旅行では1月、今年は11月とラマダンが変化しているのはこのためです。夏至の頃とラマダンが重なったならば、暑いうえに昼の時間も長いという二重苦。水も飲めないとあっては、「さぞつらかろう」と思うばかりですが、信者でもない人にとやかく言われたくないかもしれませんね。

 新聞の日付欄は3種の日付が併記されています。算用数字とアラビア数字は、同じだと思いこんでいましたが、一見して同じなのは1と9だけ。欧米に行った場合には、言葉は理解できなくてもアルファベットと数字は読めます。イスラム圏では文字はもちろん数字すらわかりにくいので、不便なことこのうえなし。私はエジプトに行った時にアラビア数字を必死で覚えたので、今でも数字だけは読めます。イスラム圏にいらっしゃる場合は、機内で一夜漬けすることをお奨め。ショーウインドウを眺めたり、市場をのぞく時に値段がわかって面白いですよ。

 算用数字の下にアラビア数字を並べてみました。これをご覧下されば、上の日付欄の数字は読めると思います。左は西暦で1998年、真ん中が宗教行事で使う太陰暦で1418年、右は現地の人が使っているイスラム暦で1376年。イスラム歴はイスラム教の創始者ムハンマドが、メッカからメジナへ聖遷した年(西暦では622年)が元年。西暦と622年のずれがあるのはこのためです。
 
 自分が生活している文化圏を当たり前のように思いがちですが、飽食の日本では想像もつかない断食という行事が1ヶ月間も行われている国が世界にはたくさんあること、その国々ではまだ2000年を迎えてないことを、気づかされた旅にもなりました。

 トルコはイスラム教を強制していないにもかかわらず、断食を守っている人をたくさん目撃。日没と同時に、それまで路上で威張っていた警察官さえ、食事のために一斉に消えてしまったのです。ラマダン終了日のこと。イスタンブールのモスクからアザーン(礼拝を知らせる唱和)が聞こえたとたん、人々が雄叫びをあげ、お祭り騒ぎになりました。赤く染まった空にいくつものモスクが黒いシルエット状になり、それはもう幻想的。そのもとで繰り広げられた感極まった騒ぎは、生涯忘れ得ぬものになりました。

 革命後のイランはイスラムの戒律が特に厳しいと言われている国で、信仰の告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼の5行が国民の義務のはず。それだけに「きびしいラマダンをのぞき見できる」と、旅の前から胸が高鳴るものがありました。なのに、実際にラマダンらしきものを見聞したのは、日の出と日没を告げるアザーンのみ。ガイドのホセインもドライバーも、断食はおろか礼拝さえもしません。ホセインの話では「若者は誰もしないよ」とのことで、拍子抜け。これって一体なんなんでしょう。

 ラマダンを実感出来たのは、テレビ画面で。あるチャンネルは一日中コーランを流しています。1月2日はラマダンに入って初めての金曜日でした。イスラム教にとって金曜は、キリスト教の日曜にあたる特別な日。モスクに入りきれない大勢の人々が、絨毯を敷いているとはいえ、地べたに座り込んでいました。あいにく横なぐりの雪が吹きつける空模様でしたが、宗教指導者ハメネイ師の声に耳を傾け、祈っている姿は、画面を通しても荘厳雪など「ものともせず」という感じでしたよ

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